いわゆる 「慢性上咽頭炎」について

こんにちは、Dr.K(ドクターコージ)です。

慢性上咽頭炎って何?
鼻うがいって何に効くの?
と言うご質問を頂きましたので、
「慢性上咽頭炎」と言う疾患概念について、
まとめてみました。

【WHO国際疾病分類にはない病名】
「慢性上咽頭炎」という疾患名は、
日本の健康保険病名にも使われている、
WHO「国際疾病分類」(ICD-11 2019年改定)にも、
疾患として掲載されていません。

予防医療とか健康について学び始めると、
公式には認められていない疾患概念として、
・副腎疲労症候群(adrenal fatigue syndrome)
・リーキーガット症候群(leaky gut syndrome )
と言う海外発の疾患概念を目にします。

公式に認められていないから、
トンデモ医学だと断定する医師もいますが、
非科学的なオカルトとは違い、
こう言う疾患概念があると仮定して
対処する事でこれまで治療法が無いと
されてきた辛い症状が良くなる例がある、
と言うことから、
否定したり無視する必要はないと思います。

実はそれらとは異なり、
「慢性上咽頭炎」と言う疾患概念は、
日本発でしかも学会で
正式に提唱された物なのですが、
しばらく忘れ去られかけていた物です。

【実は70年近くに提唱されていた】
「慢性上咽頭炎」の概念は、
大阪医大の山崎春三教授が1942年に
「鼻咽頭炎症候群」を発表したのが
最初と言われています。
1956年には東京医学歯学専門学校(現東京医科歯科大学)の
堀口申作教授が「鼻咽腔炎の現す諸症状」
を発表し、
1966年にBスポット療法と名付けられた
上咽頭擦過療法を報告しました。
短期間であまりにも多くの病状や症状を
著明に改善したと言う報告は、
当時懐疑的に受けとめられ、
普及することなく現在に至ります。

【なぜ今になって注目されるのか】
ではなぜ令和の時代に再注目されているのでしょうか。
コロナ後遺症の一症状である易疲労感に対して、
週1回、1カ月間の上咽頭擦過療法で
改善したとの報告があったことから、
インターネット上で注目を浴びた事によります。

【上咽頭の部位】
喉の奥全体を咽頭と呼び、
鼻の奥の突き当たりの部分で、
鼻の穴が喉と合流する部分を
上咽頭と呼びます。



【上咽頭の役割】
鼻を出入りする空気の通り道にある
上咽頭にはリンパ組織の「咽頭扁桃」があり、
感染を防ぐ免疫機能に関与しています。
咽頭粘膜に捕捉された異物は、
粘膜表面の線毛の運動で体外に排除され、
物理的防護機能も担っています。

咽頭は直接外界と接するため、
感染を起こしやすく、
過労や寝不足による免疫機能の低下、
気温の低下などの
ちょっとした事が誘引となり、
「急性咽頭炎」が起こります。
急性咽頭炎は病名として
広く認められています。

【「慢性上咽頭炎」の認知度は極めて低い】
「慢性上咽頭炎」の概念と治療法は、
日本の耳鼻咽喉科専門医の間でも
見解に差がみられます。
国際的にはほとんど知られていません。

【「慢性上咽頭炎」とは何か】
鼻や口を通して炎症を生じやすい部位で、
病的炎症に至らなくとも
生理的炎症や軽度の病的炎症が繰り返され、
局所の鬱血などが続く状態を
「慢性上咽頭炎」とする考えが基本です。

症状としては
1.喉の違和感などの炎症に伴う症状
2.咽頭知覚に関わる三叉神経、舌咽神経、迷走神経の支配領域への放散痛(肩こりなど)
3.副交換神経である迷走神経を介した目眩などの自律神経症状
4.持続的な炎症が免疫機能を刺激しIgA腎症など自己免疫性の二次疾患
が起こるとされており、
・のどの違和感があり
・耳下の胸鎖乳突筋を押して痛みがあれば、
「慢性上咽頭炎」の疑いがあり、
とされています。

【推奨される治療法】
上咽頭擦過療法(Bスポット療法、EAT)
綿棒に0.5~1%の塩化亜鉛溶液を染み込ませ、
鼻と口の両方から上咽頭の後壁に
強く擦りながら塗りつけます。
痛みが強く出血が多いほど炎症が強い、
と判断されますが、
何回か繰り返し炎症が軽減すると、
出血も痛みも軽くなる事が多いです。
実際に炎症を起こしている人の7-8割に
炎症所見の改善や自覚症状の軽減がある、
と言う報告もあります。

Bスポット療法の「B」は
発表当時、上咽頭は鼻咽喉と呼ばれており、
ローマ字表記「Biinku」の頭文字から、
EATは上咽頭擦過療法(Epipharinx Abrasive Therapy)の頭文字で、
両者とも意味する治療は同じです。
最近は経鼻内視鏡を用い、
炎症部位を目で確認しながら擦過療法を
行う事もあります。

【なぜ擦過療法が効くのか?】
どうしてこの療法が効くのかについては、
1.塩化亜鉛の抗炎症作用
2.鬱血部位から出血させることによる局所循環の改善
3.迷走神経への刺激
などが可能性として考えられていますが、
大規模な臨床試験なども行われておらず、
解明されているとは言えません。

自己免疫性の二次疾患にも
慢性上咽頭炎が関与している場合がある、
と推測されていますので、
様々な自己免疫性疾患、
慢性疲労性症候群、ワクチン後遺症
にも効果があるのではないか
と考える医師もいます。

【家庭で出来る「鼻うがい」も有効な可能性】
Bスポット療法を積極的に推進している
日本病巣研究会では「慢性上咽頭炎」の
予防や治療の為に1日2回の「鼻うがい」を
勧めています。


物理的に綿棒で血が出るくらい擦られるのは、
抵抗感が強い方も多いと思いますが、
鼻うがいの場合には塩水を通すだけなので、
真水や極端に冷たい水を使わなければ、
痛みや不快感はあまりありません。
とは言え厳密に濃度や温度を決めなくても、
ある程度の範囲であれば大丈夫ですので、
やりながら違和感や苦痛の少ない
塩の量や温度を調節していけば良いです。

専用の器具には専用の塩が併売されてますが、
家にある塩を水に溶かしても大丈夫です。

井戸水や海外の水道水では、
アメーバが混入していた水で鼻うがいをして
死亡した方もいますので、
水質が怪しい水は使わないとか
煮沸して冷ました白湯を使う様にしましょう。
湧水や井戸水などで無い限り、
日本の水道水は市販のミネラルウォーターより
厳しい検査項目と基準をクリアしてるので、
その様な心配はありません。

不安であったり面倒であれば
ドラッグストアで「コンタクトレンズ用生理食塩水」を
購入して使うのもアリですね。

古代インド医学であるアーユルヴェーダでも
習慣的な鼻うがいを推奨しています。
インドの場合は水質に問題があるので、
煮沸して冷ました白湯が使われます。
急須の様な「ネティポット」と言う容器で、
人肌程度の温度の生理食塩水(0.9%食塩水)を、
片方の鼻の穴から流し込み反対側から
流れ出すままにするのが古来のやり方。

Amazonや楽天などで、
樹脂製や陶器製のネティポットを
手に入れることも出来ますが、
最近では注射器タイプなど圧をかけて
行うやり方の器具もドラッグストア等で
手に入れる事が出来ます。
右から左、左から右と2回に分けて
行います。

鼻腔内に溜まった水があるので、
洗い終わった後は前傾のまま
左右にゆっくり首を回して待つと、
タラーッと溜まっていた水が出てきます。
最後に念の為軽く鼻をかんでおくと
良いですね。

アーユルヴェーダの正式なやり方では、
その後に白胡麻油を少量鼻から吸い込み、
しばらく上を向いて鼻の奥まで保湿する、
と言う事も行ったりしますが、
生理食塩水で洗うだけでも、
継続すると花粉症などの症状が良くなる、
と言う体感をされる方もいますので、
不調のある方はぜひ取り入れてみて下さい。

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