【アブラについて2018その3−飽和脂肪酸−】

こんにちは!

ヘルスドクター
健康実践支援専門医師
宮崎 光史です。

「アブラについて2018」では
・栄養素としての脂質
・脂質の分類と体内での存在型
・不飽和脂肪酸の生体内での機能
についてお話ししました。

となると、残るは
「飽和脂肪酸」ですね。

「飽和脂肪酸≒動物性食品は不健康」
「不飽和脂肪酸≒植物性食品=健康」
と言うステレオタイプな認識は、
実は1970年代に提唱された仮説でした。

これに基づいて栄養指導が
行われたにも関わらず、
病気や肥満は増える一方でした。

 

アンチテーゼとして、
「脂肪を食べよう」
「糖質が諸悪の根源」
「果糖が諸悪の根源」
などの新仮説が提唱されていますが、
飽和脂肪酸については、
統一された見解は出ていません。

むしろ、常識の様に言われていた
「飽和脂肪酸=不健康」と言う仮説は
正当性が疑問視される傾向にあります。

 

不飽和脂肪酸については、
単純に「不飽和脂肪酸=健康」とは言えず、
その種類や質(特に酸化の有無)を
考えて理想的なω3:ω6=1:2-4と言う
バランスを目指した摂取が必要
と言うことを前回お伝えしました。
(未読の方はぜひ御覧ください。)

飽和脂肪酸は不健康?健康?

飽和脂肪酸についても、
単純に「飽和脂肪酸=不健康」と
言い切ることは難しいです。

「動物性食品が諸悪の根源」
と主張される人達もいらっしゃいます。
「健康や病気予防に有用な栄養素は
植物性食品をまるごと食べることで
ほとんど摂取可能」と言うことですが、
完全植物食をした場合に
サプリメントで補わなければいけない
栄養素があったりしますので、
「目に見えて動いて感情移入出来る動物を
殺して食べない道徳的なわたし」と言う
精神的満足感は得られますが、
健康と栄養を考えた場合には、
偏っている面があることは否めません。

思想、信念や宗教的信条に基づく選択は
「健康」「栄養」とは全く関係無いですし、
それを批評するつもりは全くありません。

 

その一方で、
・ケトン体ダイエット
・パレオダイエット
・MEC食(肉Meat、卵Egg、チーズCheese)
として動物性食品をメインとし、
流派によってはほとんど野菜は食べない
と言う方達もいます。

 

こちらもまた、全員では無いですが、
「食物繊維」「ファイトケミカル」
と言う栄養素をほぼ摂らない様な
形となり、かなり偏っています。

 

もし、飽和脂肪酸や動物性食品が
悪いのであれば、これらの集団は
菜食メインの集団と比較して、
病気発症率、死亡率が
著明に高くなって良いはずです。

 

まだ新しい食事法ですので、
結果がどうなるかは、
今後あるいは後世の方々が
判断することになると思います。

 

そもそも飽和脂肪酸は
ヒトは体内で合成でき、
必ず摂らなければいけない
ものではありません。

では、飽和脂肪酸を食べる理由は
一体なんでしょう?

間違いなく言えるのは
「料理にコクや深みを与える」
と思いますが。(笑)

飽和脂肪酸の分類

前々回、初回に簡単に分類を
お示ししましたが、
長鎖、中鎖、短鎖
の三種類がありましたね。
(細かい炭素数による区分けは
統一基準が無い為、資料により
境界が微妙に異なります。)

短鎖脂肪酸

短鎖脂肪酸は、
炭素数7個以下のもので、
酢酸、プロピオン酸、酪酸
などが含まれます。

短鎖脂肪酸は、大腸において、
食物繊維やオリゴ糖を腸内細菌が
代謝することにより生成されます。

生成された短鎖脂肪酸の大部分は
大腸粘膜組織から吸収され、
上皮細胞の増殖や粘液の分泌、
水やミネラルの吸収のための
エネルギー源として利用されます。

一部は血流に乗って全身に運ばれ、
肝臓や筋肉、腎臓などの組織で
エネルギー源や脂肪を合成する材料として
利用されます。

その他にも短鎖脂肪酸には、
・腸内を弱酸性の環境にすることで
 有害な菌の増殖を抑制する
・大腸の粘膜を刺激して蠕動運動を促進する
・ヒトの免疫反応を制御する
など様々な働きがあることが知られています。

中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸

中鎖脂肪酸は、
炭素数8-12個のもので、
ココナッツやパームフルーツなど
ヤシ科植物の種子の核の部分に
多く含まれています。
母乳や牛乳にも含まれています。

中鎖脂肪酸は、
炭素鎖が13個以上の長鎖脂肪酸に
比べて短いため、
比較的水になじみやすい特長をもちます。

食品に含まれる脂肪の多くは、
前々回にもお話した様に、
化学的に安定した
中性脂肪を構成しています。

体内に入ると
中性脂肪は十二指腸内で
胆汁により乳化されます

次に
消化酵素リパーゼの働きで、
脂肪酸を一つつけたモノグリセリドと
脂肪酸、グリセロールなどに分解されます

 

水に溶けやすいグリセロールは
そのまま小腸上皮細胞から吸収されますが、
モノグリセリドと長鎖脂肪酸は、
胆汁酸の働きによりミセルという
形態となりリンパ管へと吸収され、
胸管、鎖骨下静脈、心臓へと巡って
全身へ運ばれます

難しくて良く分からないですかね?

ザックリと言うと、
中鎖脂肪酸は腸→門脈→肝臓
長鎖脂肪酸は腸→リンパ管→心臓→全身
と言う過程を取るので、
中鎖脂肪酸は長鎖脂肪酸と比較し
4-5倍の速度で吸収、代謝され、
より早くエネルギー源として
利用することが可能となります。

また、中鎖脂肪酸を摂ることで、
自身の体脂肪の燃焼もしやすくなる
とも言われています。

この特徴から、
中鎖脂肪酸がエネルギー源として
注目されているのです。

しかし、長鎖脂肪酸については、
基本的に心血管疾患その他の病気の
原因となる可能性があり避けるべき、
とする意見が大勢を占めています。

ただ一方で、
非精製糖質を摂る様な健康食と
同じ様な健康効果が超高脂肪食に
あるかも知れないと言う報告もあるのです。

飽和脂肪酸は質と量を限定すると健康に良い?

2017年1月に
The American Journal of Clinical Nutritionに
ノルウェーのベルゲン大学の研究チームが
「新鮮で加工度が低く
栄養価の高い食事を通じて
摂取したものであれば、
飽和脂肪酸はむしろ
健康に良いかもしれない」
とする研究報告を行いました。

対象数38名の12週間の
ランダム化比較試験ですので、
まだなんとも言えないですが、
・加工度の低い炭水化物(全粒穀物など)
・良質な脂肪
の健康影響は、
驚くほど似ていた
ということです。

この研究では、
38名の男性の腹部肥満者を
無作為に2群に分け、
・超高脂肪低糖質食(カロリー換算で脂質73%、糖質10%)
 (脂質の半分は飽和脂肪酸を摂取しています)
・低脂肪高糖質食(カロリー換算で脂質 30%、糖質53%)
の食事を12週間継続して
その効果を検証しています。

両群の
・総カロリー
・蛋白質
・多価不飽和脂肪酸
の摂取量は同一。
食品のタイプも同じにして、
ただ量が異なるだけでした。

その結果、
超高脂肪食でも
心血管系疾患のリスクは高くならず、
内臓脂肪、血圧、血中脂質、インスリン、
血糖などにむしろ改善を認めた
とのことです。

 

そして、この研究は
「新鮮で加工度が低く
栄養価も高い健康的な食事を通じて
飽和脂肪を大量に摂取した場合の
効果を調べる」
と言う目的があったとのことで、
・小麦粉を主成分とした製品の代わりに、
 豊富な野菜と米が使われ、
・脂肪の供給源も、低加工の主にバターやクリーム、
 低温圧搾された油など
が使用されています。

 

この研究を、
対象数が少なく追跡期間も短い
不十分な研究と無視する
ことも出来ます。

しかし、研究チームが言う様に、
脂肪の健康リスクは誇張され過ぎ
と言うことは間違いないでしょう。

そして、公衆衛生的には、
・小麦加工食品
・高度加工脂肪
・糖添加食品/飲料
を減らすことがより重要
と言うのも首肯できますね。

「健康な食事であるための
最も重要な原則が、

脂肪や炭水化物の量の問題ではなく、
それらの質であったことを
今回の結果が示している」
と言うJohnny Laupsa-Borge氏の言葉も
かなり本質では無いかと思います。

そして、飽和脂肪酸が善か悪か
と言うことについても、

「大部分の健康的な人にとっては、
飽和脂肪を多く摂取しても、
それが質の良い脂肪であり、
かつ極端に食べ過ぎなければ、
特に問題は起こらないでしょう、
健康的とすら言えるかも知れない」
とOttar K Nygård教授は仰られています。

カロリー換算73%(半分が飽和脂肪酸)
と言う超高脂肪食も、
・良質なものを選び
・全体量を調整すれば
「極端に食べ過ぎ」では無いと言う
ことでしょうか。

以上、3回に渡ってアブラについて
書いてみました。

参考になれば幸いです。